大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)220号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1(1) 本願意匠が、意匠に係る物品を「接着テープホルダー」とし、その内容は別紙図面(1)のとおりであることは、前記のとおり当事者間に争いがなく、また、引用意匠が意匠に係る物品を「接着テープホルダー」とし、その内容は審決認定(別紙図面(2)参照)のとおりであることは、原告も認めて争わないところである。

(2) そして、本願意匠と引用意匠は、共に、「接着テープホルダー」に係るものであり、この種の商品は需要者、取引者において通常底面を机上その他に据えて観察するものと認められ、しかも、両意匠はいずれも、正面と開放状の背面(本願意匠の正面と背面については、別紙図面(1)の背面図を正面図と、正面図を背面図と置換してみたもの。以下、同じ。)が平行となつていて、側面、平面からの観察においては、特に特徴のある形状をとらえ得るものではなく、正面及び背面からの観察が、需要者、取引者の注意を喚起する両意匠の形状の特徴をとらえ得るものということができるので、以下この観点から審究する。

(3) そこで、本願意匠の形態の要旨をみるに、本願意匠は、(ア)下辺と上辺がそれぞれ水平で互いに平行であり、左辺と切断刃支持部の右辺が、上記下辺及び上辺に垂直で互いに平行となつており、直線部分が、上辺、下辺、左辺の各中央部及び切断刃支持部の右辺の上部に、それぞれ長くかつ明瞭に表れていて、角部(隅部)を弧状にした横長四角形を基調とする外周線で囲まれる本体を有し、(イ)この本体の右方に抱き込むようにして、縦長小判形(その縦方向の中心線を本体の下辺及び上辺に垂直で、かつ左辺及び右辺に平行な方向に向かわせている。)の右肩を切り除いて、開口部より奥が広がつている切欠部を配し、(ウ)切欠部の右側を切断刃支持部とし、また、(エ)左側半分の中央寄りに高さの約三分の一の長さの径の巻芯部の円筒孔を穿ち、(オ)背面側をほぼ全面開放状とした基本的構成態様のものであるということができる(具体的構成態様については、後に審決の該態様の認定の当否等を検討する個所で言及する。)。

(4) 一方、引用意匠の形態の要旨をみるに、引用意匠は、(ア)上辺から左辺を経て下辺に至るまで曲率に順次変化はあるけれども、連続する弧状となり、これに水平な下辺が続き、そこから更に右辺を経て上辺に至るように弧状を描いており、左側が大きな弧で右側が小さな弧となつている、偏平な卵形を基調とする外周線で囲まれる本体を有し、(イ)この本体の右上方に、「U」字形の切欠部(その中心線は本体下辺に対してやや右斜めに傾斜した角度であり、入口が外方に向かつてそのまま大きく口を開いているようになつている。)を設けており、(ウ)切欠部の右側を切断刃支持部とし、また、(エ)左側半分の中央寄りに高さの約三分の一の長さの径の巻芯部の円筒孔を穿ち、(オ)背面側をほぼ全面開放状とした基本的構成態様のものであるということができる(具体的構成態様については、後に審決の該態様の認定の当否等を検討する個所で言及する。)。

(5) 右にみた本願意匠と引用意匠の基本的構成態様を対比すると、両意匠は、下辺に直線部分を有し、本体の右上方に切欠部を設けていて、切欠部の右側を切断刃支持部とし、また、左側半分の中央寄りに高さの約三分の一の長さの径の巻芯部の円筒孔を穿ち、背面側をほぼ全面開放状としているという一部の点では共通するが、その他の点では何ら共通するところはないといわなければならない。したがつて、「両意匠は、全体の基本的な構成態様(中略)が共通」するとした審決の認定は、誤りであるというべきである。

2 原告は、審決がした本願意匠と引用意匠との間の具体的な構成態様の差異点の認定、判断を争い、かつ審決がその前提としてなした本願意匠及び引用意匠の具体的構成態様の認定の誤りを主張するので、以下に順次検討する。

(1) 審決がその説示の<1>の差異点の認定、判断の前提として、本願意匠は、「上辺と下辺の両隅の各角をかなり大きな弧状にし、上辺と左辺の中央部をそれぞれわずかに直線状とし」と認定した点の当否についてみるに、本願意匠にあつては、本体上辺の中央部の直線部分の長さは、両角部の弧状部分が横方向に占めるそれぞれの長さの二倍強ないし三倍弱であり、左辺の中央部の直線部分の長さは、両角部(上端部及び下端部)の弧状部分が高さ方向に占めるそれぞれの長さの約二倍であり、下辺の中央部の直線部分の長さは、両角部の弧状部分が横方向に占めるそれぞれの長さの約三・五倍強ないし四倍弱であり、右辺の上部の直線部分の長さは、下角部(下端部)の弧状部分が高さ方向に占める長さとほぼ同じとなつており、それぞれの直線部分は、本願意匠の外周において長くかつ明瞭に表われているというべきである。

そうすると、審決の右認定は誤りである。

次に、<1>の差異点に関連する引用意匠の具体的構成態様についてみるに、引用意匠の外周は、上辺から左辺上方にわたつて比較的に大きな弧を成し、左辺中央部は曲率半径が大でほぼ直線に近く、短い弧を成し、さらに左辺の下方から下辺の左方にわたつて比較的に小さな弧を成し、以上の弧が連続して一体の弧状として表れ、次いで下辺中央部の直線部分を経て斜め右上方に弧を描く右辺に続き、全体として偏平な卵形を形成しているのであり、したがつて、審決が引用意匠について「偏平な横長直方体状」の形態を有するとした点は誤りである。

以上みたところによると、前記<1>の差異点の認定は、本願意匠と引用意匠の当該各形状についての誤つた認定に基づくものであり、前記<1>の差異点の判断はその前提を欠き、失当である。

(2) 審決がその説示の<2>の差異点の認定、判断の前提として、本願意匠において、「切欠部は、全体がほぼ『U』の字状で巻芯部寄りの上端が弧状に上辺角部に伸び三角形の庇状を形成しており」と認定した点の認定の当否についてみるに、本願意匠の切欠部は、横長四角形を基調とする外周線で囲まれる本体の右側上方に、本体の高さの約五八%の高さで、かつ縦横の長さの比を約六対五とし、右肩部(全周の四分の一強)を切り除いた小判形を成し、前記1(3)で判示したとおり、その縦方向の中心線を本体の下辺及び上辺に垂直で、かつ左辺及び右辺に平行な方向に向かわせているものであり、また、切欠部の左側上端部は、本体上辺の右下方に曲がる弧とつながつて鋭角の角度をなして、切欠部の上に覆い被るように右方へ突出しているものであることが明らかである。

そうすると、審決の右認定は誤りである。

次に、審決は、引用意匠において、「切欠部は、全体がほぼ『U』の字状であり、巻芯部寄りの上端が斜め直線状に伸び、上辺角部につながりほぼ直角状の庇状を形成しており」と認定したが、引用意匠のほぼ「U」の字状の切欠部の中心線は本体の下辺に対してやや右斜めに傾斜した角度を有し、また、切欠部の左側上端部(巻芯部寄りの上端)は、本体上辺の弧と鈍角の角度をなしているものであることが明らかであるから、この部分が庇状をなしているものということはできない。

審決の右認定は、引用意匠の切欠部が斜め上方を向いて表れていることを看過し、かつ切欠部の左上端部の形状を誤認した誤りがある。

以上みたところによると、前記<2>の差異点の認定は、本願意匠と引用意匠の当該各形状についての誤つた認定に基づくものであり、前記<2>の差異点の判断はその前提を欠き、失当である。

(3) 審決がその説示の<3>の差異点の認定、判断の前提として、本願意匠は、一切断刃支持部が切欠部の弧状と右下の角の弧状とがあいまつて緩やかなカーブの先細となつた鉤状を形成しており」と認定した点の当否について検討するに、本願意匠では、切断刃支持部が、切欠部の右側に、本体の右下の弧から上方へ垂直に伸びる右辺と、切欠部の右下方の弧に続き上方へ垂直に伸びる直線とによつて、本体の右下方から弧を描きつつ上方へ屈曲して真つ直ぐに立ち上る角柱状をなして存在するものであるということができる。

一方、引用意匠における切断刃支持部は、下辺の右側から大きな弧を描いて斜め上方に伸びる右辺とU字状切欠部の右辺とによつて、斜め右上方に向かつて弧を描きながら次第に先細となつているもので、この切断刃支持部の形状は、外周の卵形の形状と合わせてみると、全体としてかたつむり状の感覚を生じさせるものであるということができる。

したがつて、前記<3>の差異点の認定は、本願意匠の切断刃支持部の形状についての誤つた認定に基づくものであるのみならず、本願意匠と引用意匠の切断刃支持部の形状は美感を異にするものであることを誤認したものであり、前記<3>の差異点の判断はその前提を欠き、失当である。

(4) 審決は、<4>の差異点、すなわち、「巻芯部の円状の周囲の同心円状の模様について、本願意匠が横縞模様を現しているのに対し、引用意匠は、略輪状の模様を現している点」、並びに<5>の差異点、すなわち、「同心円状の模様の輪郭線に沿つた内側の上下の扇面状の透孔の有無の点」について、「<4>の点は、巻芯部の円孔の周囲の全体からみて、あまり目立たない部分の態様の差異にすぎず、共に同心円状の模様である点の共通点がこれを圧しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものにとどまり、<5>の点は、同心円状模様の内側に沿つた部分の態様の差異にすぎず、全体からみれば細部の差異にとどまり」と認定、判断した。

しかしながら、「接着テープホルダー」の属する文房具のように小型とはいえ、需要者が常時繰り返えし手にしてその形状に接する種類の物品については、その全体の形状もさることながら、細部の形状も需要者、取引者の注意を引く特徴を表出しているとみるべき場合は少なくなく、審決が認定した本願意匠と引用意匠の巻芯部の円孔の周囲の正面及び背面の形状もそれぞれの特徴を示しているとみられるから、両意匠は明らかに異なつているというべきであつて、<4>、<5>の差異点についてした審決の判断は誤りである。

3 以上みてきたところによると、本願意匠と引用意匠とは、その要部を成す基本的構成態様の一部の認定を誤り(前記1(3)、(4))、「両意匠は全体の基本的な構成態様(中略)が共通」すると誤つて認定し(前記1(5))、同じく要部を成す具体的構成態様についても、本願意匠、引用意匠の双方についてその認定を誤り(前記2(1)、(2)、(3))、さらに両意匠の具体的構成態様の差異点の判断を誤つたものであり(前記2(4))、これらの誤りはいずれも、本願意匠と引用意匠が類似するとし、本件出願を拒絶すべきものとした審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は違法として、取消しを免れない。

三 よつて審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

第二 請求の原因

一 特許庁における手続の経緯

山口隆治は、昭和五三年八月三日、意匠に係る物品を「接着テープホルダー」とする別紙図面(1)の意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(昭和五三年意匠登録願第三二五九三号)をし、原告は、昭和五五年一月二六日、山口から本願意匠について登録を受ける権利を譲り受け、同月三〇日被告にその旨届け出たところ、同年九月二五日拒絶査定があつたので、昭和五六年一月一九日審判を請求し、昭和五六年審判第一五一〇号事件として審理された結果、昭和六一年六月一九日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年七月九日原告に送達された。

二 審決の理由の要点

本願意匠(別紙図面(1)の背面図を正面図と、正面図を背面図と置換して、以下の認定を行う。)の形態の要旨は、全体がやや偏平な横長直方体の右側約半分を右辺と下辺に余地を残して高さの約半分の長さの径のほぼ「U」の字状の弧状の切欠部を開口状に設け、左側半分の中央寄りに高さの約三分の一の径の巻芯部の円筒孔を穿ち、右辺の余地の先端をほぼ水平状にして切断刃支持部とし、背面側をほぼ全面開放状とした基本的な構成態様のものである。

その具体的な構成態様は、上辺と下辺の両隅の各角をかなり大きな弧状にし、上辺と左辺の中央部をそれぞれわずかに直線状とし、切欠部は、全体がほぼ『U』の字状で巻芯部寄りの上端が弧状に上辺角部に伸び三角形の庇状を形成しており、切断刃支持部が切欠部の弧状と右下の角の弧状とがあいまつて緩やかなカーブの先細となつた鉤状を形成しており、そしてその先端部において右側面側を先端からほぼ垂直面状に形成し、上面をやや右下がりの斜面状とし、その右端の横位置に切断刃を設けたものであり、また巻芯部の円孔の周囲に同心円状に横縞模様を現し、その同心円状の模様の輪郭線に沿つた内側に上下にほぼ扇面状の透孔を設けており、背面側は、側板のない全面開放状とし、巻芯部の円筒の上下に前後方向に細幅の線状の切れ込みを二個所ずつ設けたものである。

これに対して、本件出願前に国内で頒布された外国カタログ「GAYLOAD」(昭和四八年一二月六日特許庁意匠課受入)の第九二頁に記載された図版により現された意匠(特許庁意匠課公知番号第C五〇〇一一九二号。以下「引用意匠」という。)は、その図版の記載により、「接着テープホルダー」に係るものと認められ、その内容は、別紙図面(2)のとおりである。

その形態の要旨は、全体がやや偏平な横長直方体の右側約半分を右辺と下辺に余地を残して高さの約半分の長さの径のほぼ「U」の字状の弧状の切欠部を開口状に設け、左側半分の中央寄りに高さの約三分の一の長さの径の巻芯部の円筒孔を穿ち、右辺の余地の先端をほぼ水平状にして切断刃支持部とし、背面側をほぼ全面開放状とした基本的な構成態様のものである。

その具体的な構成態様は、上辺と下辺の両隅の各角をかなり大きな弧状にし、上辺の両隅の各角及び左辺の上下各隅の各角の弧が各々つながる態様で上辺の中央部及び左辺の中央部を各々円弧状とし、切欠部は、全体がほぼ「U」の字状であり、巻芯部寄りの上端が斜め直線状に伸び、上辺角部につながりほぼ直角状の庇状を形成しており、切断刃支持部が切欠部の弧状と右下の角の弧状とがあいまつて緩やかなカーブの先細となつた鉤状を形成しており、そしてその先端部において右側面側を先端から緩やかな弧状面に形成し、上面をやや右下がりの斜面状とし、その右端の横位置に切断刃を設けたものであり、また巻芯部の円孔の周囲に同心円状のほぼ輪状の模様を現しており、背面側は、側板のない全面開放状とし、そうして材質を透明なものとしたものである。

そこで、両意匠を比較検討するに、

<1>偏平な横長直方体の左半部の上辺及び左辺の中央部を、本願意匠がわずかに直線状としているのに対し、引用意匠は、上辺及び左辺の両隅の各角の弧状がつながる態様で円弧状とした点、

<2> 切欠部の巻芯部寄りの上端部の態様について、本願意匠が、弧状に上辺角部に伸び、三角形の庇状に形成したものであるのに対し、引用意匠は、斜め直線状に伸び上辺角部につながり、ほぼ直角状の庇状をなしている点、

<3> 鉤状の右側の上端部について、本願意匠が垂直面状であるのに対して、引用意匠は、緩やかな弧状面に形成されている点、

<4> 巻芯部の円状の周囲の同心円状の模様について、本願意匠が横縞模様を現しているのに対し、引用意匠は、ほぼ輪状の模様を現している点、

<5> 同心円状の模様の輪郭線に沿つた内側の上下の扇面状の透孔の有無の点、

<6> 背面側の巻芯部の円筒状の切れ込みについて、本願意匠が前記認定のとおりであるのに対し、引用意匠は、この点が明らかでない点、

<7> 全体が透明か否かの点

で両意匠に差異が認められる。しかしながら、

<1>の点は、上辺及び左辺の各中央部のわずかな部分の態様の差異にとどまり、全体のやや偏平な横長直方体の左端半分の各隅の各角をかなり大きな弧状とした点の共通点がこれを圧しており、両意匠の類否判断を左右するほどのものとはいえず、

<2>の点は、切欠部の巻芯部寄りの上端部の全体からみて、ごく小さな部位の態様の差異にすぎず、巻芯部の上辺の隅と切欠部の上端とによつて形成される庇状部分という点では共通しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものにとどまり、

<3>の点は、全体からみてごく小さな部分の態様の差異であつて、共に切断刃支持部が鉤状である点の共通点がこれを圧しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものであり、

<4>の点は、巻芯部の円孔の周囲の全体からみて、あまり目立たない部分の態様の差異にすぎず、共に同心円状の模様である点の共通点がこれを圧しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものにとどまり、

<5>の点は、同心円状模様の内側に沿つた部分の態様の差異にすぎず、全体からみれば細部の差異にとどまり、

<6>の点は、本願意匠が巻芯部に前記認定の態様で現されたものであつて、それほど目立つ態様のものでもなく、たとえ引用意匠がこの点について明らかでないとしても、視認しにくい部位での差異でもあり、ほとんど両意匠の類否判断への影響は微弱なものというほかなく、

<7>の点は、この種物品において、全体を透明にするか不透明とするかは、共にごく普通に行われるものであり、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものにすぎず、

そうして、これらの差異点があいまつた効果を考慮しても、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすほどのものとはいえない。

一方、両意匠は、全体の基本的な構成態様及び前記の差異点を除く各部の具体的な構成態様のほとんどが共通し、これらの共通点は、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものと認められる。

してみれば、両意匠の差異点が、類否判断に支配的な影響を及ぼすほどのものとはいえないのに対し、共通点は、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものである以上、両意匠は、類似するものといわざるを得ない。

したがつて、本願意匠は、意匠法第三条第一項第三号に規定する意匠に該当するから、意匠登録を受けることができない。

三 審決の取消事由

1 引用意匠の意匠に係る物品及び意匠の内容が審決認定のとおりであることは認めるが、本願意匠と引用意匠とは、その構成の特徴が根本的に異なり、これによつて美感の在り様が著しく相違し、さらに細部の構成においても異なつているにかかわらず、審決は、本願意匠と引用意匠の構成の特徴をいずれも誤認して、両意匠は、全体の基本的な構成態様が共通すると誤つて認定し、また、両意匠の細部の構成の各認定を誤り、本願意匠と引用意匠との間の細部の構成の差異の認定及び判断を誤つたものであり、ひいて、両意匠は類似するものであると誤つて判断したものであるから、違法であつて、取消しを免れない。

2 本願意匠及び引用意匠の各構成の特徴及び両意匠の基本的相違

(1) 審決は、本願意匠及び引用意匠の形態の要旨として、いずれも、「全体がやや偏平な横長直方体の右側約半分を右辺と下辺に余地を残して高さの約半分の長さの径のほぼ『U』の字状の弧状の切欠部を開口状に設け、左側半分の中央寄りに高さの約三分の一の(長さの)径の巻芯部の円筒孔を穿ち、右辺の余地の先端をほぼ水平状にして切断支持部とし、背面側をほぼ全面開放状とした基本的な構成態様のものである。」と認定し、「両意匠は、全体の基本的な構成態様(中略)が共通し、」この「共通点は、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものと認められる。」と認定したが、誤りである。

(2) 本願意匠の構成の特徴

別紙図面(3)(参考図面)を参照して説明すると、本願意匠は、下辺1と上辺2がそれぞれ水平で互いに平行であり、左辺3と右辺4が上記下辺1及び上辺2に垂直で互いに平行であり、かつ、正面と開放状態の背面(以下、本願意匠の正面と背面については、審決が説示したのと同様に、別紙図面(1)の背面図を正面図と、正面図を背面図と置換して述べる。)も互いに平行となつている、やや偏平な横長直方体状を呈し、直線部分が上辺2、下辺1、左辺3の各中央部及び右辺4の上部に、それぞれ長くかつ明瞭に表れていて、角部(隅部)を弧状にした、角形を基調とする本体を有し、中心線5を本体の下辺1及び上辺2に垂直で、左辺3及び右辺4に平行な方向に向かわせて縦長に表し、右肩約四分の一を切り除いて、開口を狭くした縦長小判形の切欠部を、本体内の右方に抱き込むようにしている構成であり、この構成態様が本願意匠の本質的な特徴である。

(3) 引用意匠の構成の特徴

一方、引用意匠は、同じく別紙図面(3)(参考図面)を参照して説明すると、上辺2´から左辺3´を経て下辺1´に至るまで曲率に順次変化はあるけれども、連続する弧状となり、これにやや短く水平な下辺1´が続き、そこから更に右辺4´を経て上辺2´に至るように弧状を描いており、かつ正面と開放状の背面が平行となつていて、正面から見て左側が大きな弧で右側が小さな弧となつている、偏平な卵形を基調とする本体を有し、中心線5´を本体の下辺1´に対して約六五度の角度に斜め右上方に向け、入口が外方に向かつて大きくすんなりと口を開いているようになつているU字形の切欠部を、本体の右上方に設けている構成であり、この構成態様が引用意匠の本質的な特徴である。

(4) 本願意匠は上記のように角形であり、引用意匠は卵形、丸形である。そして、角(四角)と丸とは、これを見た場合に、だれもが相互に全く別異の感じを受けるところから、それぞれ完全に独立した独自の形状として、類型を全く異にし、看者に対して、本願意匠が肩の張つた、男性的で、がつしりとして、やや硬い感じを与えるのに対して、引用意匠は肩のなだらかな、女性的で、柔らかな感じを与えるものであるから、両者の美感の在り様は本質において明らかに相違する。

その上、本体に対する切欠部の在り様についてみると、本願意匠の切欠部は、<1>小判形になつていて、<2>しかも、その中央線5は本体の左辺3と右辺4に平行、上辺2と下辺1に垂直であり、<3>その左側上端部6は本体の上辺2の右下方に伸びる弧によつて右側に大きく突出して上から覆い被さるようになり、<4>これによつて、本体の中に抱きかかえられるようになつていて、<5>さらに入口が狭く(別紙図面(3)参照)、奥に向かつて広がるような懐の深い感じを与えるものである。

これに対し、引用意匠の切欠部は、<1>U字状になつていて、<2>その中央線5´が本体の下辺1´に対して約六五度をなして斜め右上方を向いており、<3>その左辺6´は本体の上辺2´と直角状をなしていて、やや右方に傾斜してはいるが、上から覆い被さつている形態でなく、<4>外方を向いており、<5>その開口部が外方に向かつてすんなり開いている(別紙図面(3)参照)ところから開放的な感じを与えるものである。

これらの本願意匠の<1>~<5>と引用意匠の<1>~<5>のそれぞれの結合関係からしても、本願意匠と引用意匠との間には大きな美感の相違がみられる。そして、これらの相違は、上記角型と丸型という基本的な美的処理方法とあいまつて、両意匠の美的印象を更に一層異なつたものとしているのである。

3 本願意匠と引用意匠との間の細部の構成の差異の認定及び判断の誤り

(1) 審決は、本願意匠と引用意匠の具体的な構成態様の差異として、「<1> 偏平な横長直方体の左半部の上辺及び左辺の中央部を、本願意匠がわずかに直線状としているのに対し、引用意匠は、上辺及び左辺の両隅の各角の弧状がつながる態様で円弧状とした点」を挙げ、「<1>の点は、上辺及び左辺の各中央部のわずかな部分の態様の差異にとどまり、全体のやや偏平な横長直方体の左端半分の各隅の各角をかなり大きな弧状とした点の共通点がこれを圧しており、両意匠の類否判断を左右するほどのものとはいえ」ないと認定、判断した。

審決は、右のように認定、判断する前提として、本願意匠は、「上辺と下辺の両隅の各角をかなり大きな弧状にし、上辺と左辺の中央部をそれぞれわずかに直線状とし」と認定したが、本願意匠にあつては、本体の上辺の中央部の直線部分の長さは、両角部の弧状部分が横方向に占めるそれぞれの長さの約二・二倍であり、左辺の中央部の直線部分の長さは、両角部(上端部及び下端部)の弧状部分が高さ方向に占めるそれぞれの長さの約二倍であり、下辺の中央部の直線部分の長さは、両角部の弧状部分が横方向に占めるそれぞれの長さの約三・九倍であり、右辺の上部の直線部分の長さは、下角部(下端部)の弧状部分が高さ方向に占める長さの約一・三倍となつており、こうした直線部分の長さの総和は弧状部分の右に述べた長さの総和の約一・五倍となつているものであつて、上辺、左辺、下辺の各中央部分及び右辺の上部に、それぞれ直線部分が長くかつ明瞭に表れているのである。このように、本願意匠は、「横長直方体の左半部の上辺及び左辺の中央部をそれぞれわずかに直線状と」するものではないから、審決の右認定は誤りである。

また、審決は、前記<1>の差異点についての認定、判断の前提として、引用意匠は、「上辺と下辺の両隅の各角をかなり大きな弧状にし、上辺の両隅の各角及び左辺の上下各隅の各角の弧が各々つながる態様で上辺の中央部及び左辺の中央部を各々円弧状とし」と認定した。

しかし、引用意匠は、本体は、縦対横対厚さを大略三・四対五対一程度の偏平な平行板状の上辺から左辺上方までが大きな弧を描き、左辺中央部の曲率半径の大きい短い弧を経て、更に左辺の下方から下辺の左方までのやや小さな弧につながる部分が連続して弧状に表れ、下辺中央部の直線部分を挟み、更に切断刃に至る右辺が斜め右上方に弧を描いている卵形を形成している。この形は、正面から見て左側が大きな弧で、右側が小さな弧となつている卵の前部と後部を縦に真つ直ぐ切り落としたような偏平な卵形である。したがつて、引用意匠は、わずかに左辺中央部を除いて直線部分がなく、弧が組み合わさつている上に、さらにその弧が一見して卵形を直感させる構成であるから、審決の右認定は誤りである。

したがつてまた、前記<1>の差異点の認定は、本願意匠と引用意匠の当該各形状についての誤つた認定に基づくものであり、前記差異点<1>の判断はその前提を欠き、失当である。

しかも、審決が、前記<1>の差異点が本願意匠と引用意匠の類否判断を左右するほどのものとはいえないと評価する根拠として挙げた両意匠の「全体のやや偏平な横長直方体の左側半分の各隅の各角をかなり大きな弧状とした点の共通点」のうち「偏平な横長直方体状」の形態は、本願意匠特有のものであり、引用意匠ではこのように構成されておらず、さらに「左端半分の各隅」が角を形成するという形態も、本願意匠特有のものであり、引用意匠には隅とか角とかを認識させるような要素は存在しない。したがつて、審決のいう「共通点」は、本願意匠と引用意匠との間に存しないから、この点においても前記<1>の差異点の判断は誤りである。

(2) 審決は、本願意匠と引用意匠の具体的な構成態様の差異として、「<2> 切欠部の巻芯部寄りの上端部の態様について、本願意匠が、弧状に上辺角部に伸び、三角形の庇状に形成したものであるのに対し、引用意匠は、斜め直線状に伸び上辺角部につながり、ほぼ直線状の庇状をなしている点」を挙げ、「<2>の点は、切欠部の巻芯部寄りの上端部の全体からみて、ごく小さな部位の態様の差異にすぎず、巻芯部の上辺の隅と切欠部の上端とによつて形成される庇状部分という点では共通しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものにとどまり」と認定、判断した。

審決は、右のように認定、判断する前提として、本願意匠において、「切欠部は、全体がほぼ『U』の字状で巻芯部寄りの上端が弧状に上辺角部に伸び三角形の庇状を形成しており」と認定した。

しかし、本願意匠の切欠部は、横長直方体の本体の右側やや上方に、本体の高さの約五分の三の高さで縦対横を約六対五とし、右肩約四分の一を切り除いた小判形を形成し、これが縦方向で表れている。そして、切欠部の左側上端部は、本体の上辺の右下方に曲がる弧とつながつて先端が尖り、切欠部の上に覆い被さるように右方へ突出しているのであつて、全体がほぼ「U」の字状ではない。したがつて、審決の右認定は誤りである。

さらに、審決は、本願意匠の切欠部は縦方向を向いており、また、切欠部の左側上端部は庇状を形成してはいるが、その形は鳥の嘴状であることを看過した。

また、審決は、前記<2>の差異点についての認定、判断の前提として、引用意匠において、「切欠部は、全体がほぼ「U」の字状であり、巻芯部寄りの上端が斜め直線状に伸び、上辺角部につながりほぼ直角状の庇状を形成しており」と認定した。

しかし、引用意匠の切欠部は「U」の字状ではあるけれども、これが本体の下辺に対して約六五度の角度で斜め上方を向いて表れているものであることが、審決においては看過されている。また、この切欠部の左側上端部(巻芯部寄りの上端)は、本体の上辺の弧と約一一〇度の角度をなし、わずかに右方に傾斜しているだけのものであるから、庇状とはいえない。したがつて、審決の右認定は誤りである。

以上のように、切欠部の左上端部をみると、本願意匠では、あたかも鳥の嘴のように見える点において引用意匠と明らかに異なり、本願意匠における切欠部の左側上端部は、横長直方体の本体に小判形の切欠部を抱き込むよう形成することに直接あずかつており、この部分があるからこそ、切欠部が小判形にみえ、本体の中に抱きかかえられるようにもみえるのであつて、前記2(2)の本願意匠の構成の特徴を構成するための不可欠の部分となつている。

したがつてまた、前記<2>の差異点の認定は、本願意匠と引用意匠の当該各形状についての誤つた認定に基づくものであり、前記<2>の差異点の判断はその前提を欠き、失当である。

(3) 審決は、本願意匠と引用意匠の具体的構成態様の差異として、「<3> 鉤状の右側の上端部について、本願意匠が垂直面状であるのに対して、引用意匠は、緩やかな弧状面に形成されている点」を挙げ、「<3>の点は、全体からみてごく小さな部分の態様の差異であつて、共に切断刃支持部が鉤状である点の共通点がこれを圧しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものであり」と認定、判断した。

審決は、右のように認定、判断する前提として、本願意匠は、「切断刃支持部が切欠部の弧状と右下の角の弧状とがあいまつて緩やかなカーブの先細となつた鉤状を形成しており」と認定したが、本願意匠では、切欠部の右側には切断刃支持部が、本体の右下の弧から上方へ垂直に伸びる右辺と、上記切欠部の右下方の弧に続き上方へ垂直に伸びる直線とによつて、本体の右下方から弧を描きつつ上方へ屈曲して真つ直ぐに立ち上る角柱状をなして存在するものであつて、単なる鉤状ではなく、角柱状をなしているものである。そして、これが本体の角形に、同じ角形として更にアクセントを与えている。したがつて、審決の右認定は誤りである。

一方、引用意匠においては、下辺の右側から大きな弧を描いて斜め上方に伸びる右辺とU字状切欠部の右辺によつて、斜め右上方に向かつて弧を描きながら次第に先細となつているもので、これが本体の卵形に同じタイプのアクセントを与えて、全体としてかたつむり状の感覚を生じさせるものである。

したがつてまた、前記<3>の差異点の認定は、本願意匠の切断刃支持部の形状についての誤つた認定に基づくものであるのみならず、本願意匠と引用意匠の切断刃支持部の形状はその美感を大きく異にするものであることを誤認したものであり、前記<3>の差異点の判断はその前提を欠き、失当である。

(4) 審決は、本願意匠と引用意匠の具体的な構成態様の差異として、「<4> 巻芯部の円状の周囲の同心円状の模模について、本願意匠が横縞模様を現しているのに対し、引用意匠は、略輪状の模様を現している点、<5> 同心円状の模様の輪郭線に沿つた内側の上下の扇面状の透孔の有無の点」を挙げ、「<4>の点は、巻芯部の円孔の周囲の全体からみて、あまり目立たない部分の態様の差異にすぎず、共に同心円状の模様である点の共通点がこれを圧しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものにとどまり、<5>の点は、同心円状模様の内側に沿つた部分の態様の差異にすぎず、全体からみれば細部の差異にとどまり」と認定、判断した。

しかし、本願意匠においては、正面側にはほぼ扇面状の透孔のみが現れ、横縞模様は現れていないのであつて、両意匠の見どころである正面からみれば、本願意匠の上下に位置するほぼ扇面状の切欠き模様と、引用意匠の同心円の波紋状の模様とでは、看者に与える印象が明らかに異なるから、審決の右認定、判断は誤りである。

第三 請求の原因に対する認否及び被告の主張

一 請求の原因一、二の事実は認める。

二 同三は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決には原告主張の違法はない。

1(1) 原告は、本願意匠及び引用意匠に係る形態について、全体の基本的な構成態様と各部の具体的な構成態様に区別することなく立論している。しかし、一般的に意匠の認定に当たつては、意匠の類否に最も大きな影響を及ぼす全体の基本的な構成態様と、これに比べて及ぼす影響の小さい各部の具体的な構成態様とに区別し、それぞれの構成態様が、意匠全体のうちどの程度の重要性を有するものであるかを衡量し、その重要度に応じた認定をすべきものである。原告は、意匠に係る形態を単純にいくつかの部分に分けて、それぞれの態様を、重要性の度合いを考慮することなく、部分的な構成態様につき過剰に製図的な細かい観察をして認定しており、妥当ではない。

のみならず、一般的に立体物の意匠については、通常の使用時において、使用者が最も多く見る角度から、立体物の固まり全体を三次元的に観察して判断することが必要とされるものである。しかるに、原告は、両意匠の正面の態様を、専ら平面図的図形として、その図形をごく間近に置いて対比し、図学的な細かさで観察し、明瞭でない差異あるいは部分的な差異を過大に捉えており、意匠の認定の方法として、極めて不適切である。

(2) その結果、原告は、本願意匠について、上辺及び左辺中央部の直線部とこれにつながる角丸部の曲線との境界が必ずしも明確でないところをあえて区別して、その寸法の差異について述べ、論理を飛躍させて全体が「角」型であるとし、また、切欠部について、右上部が開放状となつている点を無視して、これをあえて小判形と称し、しかもさほど明確でないにもかかわらず、縦長であると断定している(取消事由の項2(2))が、誤りである。

(3) 他方、引用意匠については、本願意匠と異なり、上辺中央部と左辺中央部がわずかに弧状となつている点及び下辺の直線部がわずかに短い点という、いずれも部分的な差異を根拠として、引用意匠の本体が偏平な卵形を基調とするものであり(取消事由の項2(3))、本願意匠と根本的に異なる形態であると断じたが、誤りである。また、引用意匠の切欠部について、その上方が開放状となつていて、前斜め上からの撮影であるために不明確であるにもかかわらず、これを「六五度の角度をなして斜め右上方を向いて」いると断じている(同2(4))が、これも誤りである。

(4) 原告は、本願意匠は角形であり、引用意匠は卵形、丸形であるから、両者は形状としての類型を全く異にし、看者に対して、本願意匠が肩の張つた、男性的で、がつしりとして、やや硬い感じを与えるのに対して、引用意匠は肩のなだらかな、女性的で、柔らかな感じを与えるものであるから、両者の美感の在り様は本質において明らかに相違すると主張する(取消事由の項2(4))。

しかしながら、原告主張のように、本願意匠を角形とし、引用意匠を卵形、丸形として単純な形態に置き換え、両意匠は類型を全く異にすると論じることは、両意匠に係る形態とは関係のない全く誤つた見方に基づくものであつて、不当である。原告の主張をあえて善解すれば、審決認定のとおり、本願意匠が上辺と左辺の中央部がそれぞれわずかに直線状としたものであるのに対し、引用意匠が上辺の両隅の各角及び左辺の上下各隅の弧が各々つながる態様で上辺の中央部及び左辺の中央部を各々円弧状としたものであることによつて、本願意匠を角形と称し、引用意匠を卵形、丸形と称するものであるということになろうが、その差異は結局のところ、審決が認定したとおり部分的な差異に帰し、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものにすぎない。

そして、原告は、角形と卵形、丸形との差異がある点を根拠として、本願意匠が男性的等の感じを与え、引用意匠が女性的等の感じを与え、両者の美感の在り様は本質において明らかに相違すると主張するが、主観的な感想にとどまり、根拠がない。

2(1) 原告は、本願意匠の具体的構成態様に関し、本願意匠の直線部分の長さの総和は、弧状部分の長さの総和の約一・五倍の長さとなつている(取消事由の項3(1))と主張するが、これは、立体物の正面の態様につき、製図的な見方で図面上の寸法を論じているものであつて、立体物の意匠に係る形態の要旨についての誤つた見方である。なお、原告の指摘の点は、この種物品を見る場合の通常の視点から立体物として見た場合、ごく部分的な構成態様の差異にすぎず、「上辺と下辺の両隅の各角をかなり大きな弧状にし、上辺と左辺の中央部をそれぞれわずかに直線状とし」とした審決の認定に誤りはない。

また、引用意匠の切断刃支持部が切欠部の弧状と右下の角の弧状とがあいまつて緩やかなカーブの先細となつた鉤状を形成している点について、そのカーブの曲率のわずかの差異を捉えて、「かたつむり状の感覚を生じさせる」(同3(3))という、本願意匠と全く異なる表現を用いているが、これも前記1(1)の不適切な認定方法を用いたことによるもので、誤りである。

このほか、原告は、審決の本願意匠及び引用意匠の各部の具体的な構成態様の認定が誤つていると主張する(取消事由の項3)が、原告が主張するところは、審決が認定するに当たつて用いた表現と多少異にしているものの、実質的には大差のないところであつて、両意匠の類否判断に微弱な影響しか及ぼさない部分的な態様についての主張にとどまる。

(2) 原告は、審決がした、本願意匠と引用意匠との間の具体的構成態様の差異についての認定、判断の誤りを主張する(取消事由の項3)が、両意匠に係る形態についての誤つた見方に基づくものであり、理由がない。

3 本願意匠は、引用意匠とその部分的な形態が多少異なるものであるが、全体の基本的な構成態様及び各部の具体的な構成態様のほとんどが共通し、これらの共通点は、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものであるから、両意匠は類似するものといわざるを得ない。すなわち、両意匠は、その形態全体の基調を同じくするものであつて、同一の意匠とはいえないまでも、格別の新規性、創作性がみられず、類似性の範囲を出るものではなく、このような意匠について、排他的独占権の設定をすることは、意匠の創作の奨励とはならないというべきである。

〔編註その三〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

別紙図面(三)

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!